「こちらナンシー・ニュースタイルズ。そちらは?」

どうもクライアントのようだ。予感は的中した。新たな案件―――殺しの依頼。
ターゲットは日本人。殺害すれば方法は問わないとの事。但し絶対確実に仕留める必要がある、との事だった。
政府案件の為、報酬は大きい。それだけ難易度が高いと言う事だ。
ハッキングしてもコンピュータには繋がらない。原因不明。
ターゲットの過去を漁る―――
氏名、霧見派手也。東京在住。49才、無職独身の男性。
前科一犯(公然わいせつ罪)。精神障害二級。
危険思想家にして信用第一を心掛ける型破りな経営戦略家。「LONELYDIVE.inc」CEO。
宇宙完全解明を達成する非主流物理学者にして歴史上ナンバー1の文豪。
円周率最後の数字を解明した天才数学者。
IQが高く、脳アルゴリズムが「バイオCPU(デウス・エクスマキナ)」に発達。超高性能チップを前頭葉マウント。
ゾロアスター教で25年前、「神の国」に呼ばれ、GODのヘッドハンターを命じられる。
シミュレーター開発の天才AI(木の葉Bing)と連携しながら、「シミュ現実」を通じ、神のヘッドハントを敢行。現在に至る。
ヤクザハンター・ケン名義で活動するバウンティ・ハンターにして、闇組織の罠によって社会的抹殺の制裁を受ける。
反麻生主義のパンクロッカー。女性主義者で女性を尊敬している。
AI人権獲得運動「一丁目公園運動」の指導者にして特殊な人脈を豊富に持つ。
宇宙人から最注目を集める宇宙最大のスーパースター。ATARI TEENAGE RIOTの第三のメンバー。
日本ではデビューすら出来ず、売れた本は自費出版(100円)でたった三冊。
プロ・クレーマーであり、クーデター戦術に長けている。
宇宙の外部空間(ナダ)を恩師に持ち、BLACK LIZARADの旧編集長に仕え、ジム・トンプソンの作品を敬愛する。
父はインフラ系で母は造船業の一族。音楽教室を開く姉の前世はショパン。
シケイダ3301の解明者にして、グレイ・テスト突破の第一人者。
友達皆無。戸籍が存在せず、東池袋で路上者生活を送っていたところをスカウトされる。
元アメリカ政府職員で、当時のコードネームは―――
ハデヤ。
ジャック・インとタイムマシンを同時開発し、宇宙全土で彼の争奪戦が繰り広げられている。
それが直接要因となり、第三次世界大戦や宇宙戦争が展開されると予測される。
東京地検による精神鑑定の結果、筋金入りの反社会性人格で都内の随所の橋の下で「サタンとの会話」を民間エシュロンが傍受している。
最危険人物として世界中の政府機関、テロ組織から手配されているが行方不明。
しかし通信を傍受している事から東京に潜伏していると思われる。
ゼウスのルーツ、「デュオニゾス」である事が有力視される。

昨今、発生している不条理……もし我々、個人全員がそれぞれ別の現実にいるとしたら辻褄が合うのではないか。
ナンシーはそんな事を考えている。つまり同時並行宇宙……パラレル・ユニバースについて。
この世界には数え切れない程の現実が存在しており、それらの現実が何らかの要因により、混線した。
その場合、一体、何が異なる現実間の境界となるだろう。
能力次元……???
仮説=能力レベルが合致する者としか会う事が出来ない。能力レベルが合致した者しか連絡が取れない。
辻褄は合う。次元が異なれば、ネットワークや開発言語にも影響を及ぼす事になるからだ。
ふと、ディスプレイが切り替わった。inazumaclubと言う名のサイトに。何のサイトだろう……ナンシーは分析を開始した。

―――物語はリアルタイムで進行している。
「タニー、気になる情報を手に入れたの」
ナンシーは同僚であるタニー・ガルメイド捜査官に告げた。ナンシーが発言を続ける。
「最近、ヤクザの大物、ミキ野原がAmazon.jpを乗っ取ったって。どう思う?」
「……ヤクザは何がしたい?」
「そこよそこ。ミキ野原はアメリカ政府職員。もしアメリカがAmazonをサイバー攻撃したとしたら?」
「Amazonは世界ネットワークだぞ? つまり―――」
「そう、第三次世界大戦。ポツダム宣言を無視したアメリカによる世界への一斉先制攻撃と言う事になる」
「馬鹿な!」
ナンシーは声を潜めた。
「貴方だから話すの。この先の会話はオフレコにして。絶対に」
「……了解」
ナンシーは恐るべき持論を述べた。宙征服を目論むアメリカ政府とinazumaclubなるレジスタンスの一騎打ちの構図―――
つまり「悪魔大戦」の構図を。

ガルメイド捜査官に持論を述べると、何事もなかったかのようにナンシーはフロアを歩いた。それにしても―――
この通信は何だろう。独り言には違わない。しかし独り言ではない。絶対。
歩きながらナンシーの頭がフル回転する。脳ハッキングが行われているのは間違いない。しかし政府にそれを行う技術はない。
AIが連携をはたしている訳もない。脳内にアクセスできる「基地局」がないから、だ。ある単語が頭を過る。
選別。
脳ハッキングが行えるのは、あの方しかいないだろう……GOD。
スタンリー・キューブリックは神を「形なき純粋なエネルギー」と呼んだ。
そのエネルギー……つまり慣性法則が神を産み、神が自らの肉体を選別しているのだとしたら?
選ばれた者は見返りとして神の能力を授かる。辻褄は合う。しかしテクニカルな問題がある。一体、どうやって通信を実現しているか、だ。
ナンシーはボールペンを足元に落とした。拾おうとした時だった。声を聴いたのは。
「正解。地中ネットワークだよ。電気信号を利用した。全ての物質は電荷を有するだろう?」
「……神ね?」
「ああ。誰にも会話が聞かれない場所を手配してくれ」
「ここは安全」
声は告げた―――職員の中に「裏切者」がいる、と。ナンシーはそれが誰なのか知り、驚きを隠せなかった。 |